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バーナムラブコメ

バーナムラブコメ

2026年08月17日

お疲れ様です。かさたたです。

最近読んだ本がとてもよかったので、書評を書こうと思います。タイトルは『向かいのしごでき後輩はベランダで甘えたい』という作品です。前回の記事でも少し触れましたが、改めて詳細に書いてみたいと思います。
ビリヤニと、日曜日

まずこの作品のあらすじは、しがないサラリーマンの主人公とその会社の後輩であるヒロインが、ベランダを挟んで向かいのマンションに住んでいることがわかり、それから二人は互いの家のベランダを挟んで酒を酌み交わし交流を深めていくというストーリーになっています。
ヒロインが積極的に迫ってくる、よくある弱者男性にブッ刺さるタイプのストーリーです。

この作品は読み手をとにかく主人公に共感させて、主人公視点の感情を読み手にダイレクトに伝える、という手法を用いているように思えます。読み手が主人公に共感するには、まずその境遇や特徴を揃える必要があります。主人公の特徴を挙げると、以下になります。

  • 都内在住のサラリーマン
  • 独身男性
  • アラサー(多分)
  • 金曜日は一人で晩酌
  • 休日は特に予定もなく一人で過ごす
  • 会社では頼れる存在

どうでしょうか、最後の一つを除くと、まるで私のことを書いているかのようです。このような生活を送っている独身のサラリーマンはごまんといることでしょう。成人男性でラノベを読む層はほぼほぼ当てはまる特徴と言えるでしょう。
私自身がそうなのではっきりと言えますが、このような生活を送っている人間は、何か良いことないかなとは思いつつも、日々繰り返される起床→労働→帰宅→睡眠のループを淡々と過ごしています。定期的に会う友人は片手ほどの数もいない、LINEの通知も滅多に来ない、もちろん恋人もいないので、休日の予定はありません。一人で散歩したり家で仕事の勉強をしたり。ただ、一人の時間が好きだからこの生活に大きな不満はない。だから生活を変化させるような行動は起こしません。
決して恋人が欲しくないわけではないのです。むしろめちゃくちゃに恋人を欲しているけれど、自己肯定感がそこまで高くないので、自分からは行動しません。
そうするとどうでしょう。自分のことを愛してくれて、こんな変わり映えのない日常を変えてくれる、素敵な人が現れないかな、という受け身な妄想をし始めるのです。

そこにこの作品です。自分と同じ境遇の主人公に対して、容姿の整った萌えキャラが主体的に迫ってくるストーリー、これはかなり効きます。妄想の世界を読みものとして楽しむことができる、まさにポルノです。

もちろん、自分と同じタイプの人間に近づく女性など、美人局やビジネス目的だ、とひねくれがちな私たちは考えてしまいます。
この作品はその辺りをしっかり対策してあります。主人公にはほどほどの「シゴデキ」属性が設定されていたり、ほどほどに頼もしい言動を見せたりします。私たちが考える、こうすればモテるやろwと思いがちな特徴や、努力すれば身につけることができるような属性が付与されているのです。私たちを模倣したようなキャラ設定に、現実的でかつ少し良い要素を加えることで、リアリティを持たせつつ、共感性は損なわないのです。
ここに「ずば抜けて仕事ができる」「顔がかっこいい」「高身長」「圧倒的高収入」みたいな非現実的な要素が加わってしまうと、読者は主人公に共感できません。
その例として、学園アイドルマスターの藤田ことねのストーリーコミュにおいて、プロデューサーがあまりにも出来すぎるために、多くのユーザーがストーリーをプロデューサー目線ではなく、第三者視点で見てしまうというような現象が起こってしまいます。

また、この作品では主人公の特徴が明示されていません。挿絵に主人公の顔は出てきませんし、容姿に関する特徴はあまり書かれていません。「整えればかっこいい」であったり、主人公に惚れているヒロイン目線の容姿に関する記述のみです。
これも読み手に共感させるための重要な要素であり、占いにおけるバーナム効果を彷彿とさせます。バーナム効果とは、「誰にでも該当するような曖昧で一般的な性質を表す記述を、自分、もしくは自分が属する特定の特徴を有する集団だけに当てはまる性質だと捉えてしまう心理学的な現象」を指します。
(wikipedia バーナム効果
この曖昧さから、読者は主人公に自身の特徴をあてはめ、共感性を高めることができるのではないでしょうか。まさにバーナムラブコメです。

また、共感を促すためのリアリティの観点でいうと、ヒロインが他部署の人間であるという設定にバランスを感じました。サラリーマンをしていると、「社内恋愛」というものについて考えることがあるでしょう。基本的に危険な行為であることは間違いないのですが、同じ部署となると危険度はMAXになります。失敗したら業務に支障が出てしまいます。
同じ部署一緒に仕事をする先輩に惚れてしまった、というストーリーが一番描きやすいんじゃないかと思いますが、そうすると前述のような考えを持つサラリーマンは、そこに危機感を感じてしまい「共感」からは逸れてしまいます。そのため、筆者はあえて主人公とヒロインを別の部署の人間にすることを選んだのではないかと考察しています。

ここまでこの作品が如何に巧く読者の「共感」を誘うことができているかを書いてきましたが、それが何をもたらすというと、自分と同じような性格・境遇の主人公からみたヒロインはたまらなく愛おしく感じるのです。

映画『恋空』を観て主人公視点のヒロインに対する感情に共感できますか?私はできませんでした。『恋空』の主人公は好きな人に対して主体的にアプローチを仕掛けることができる、いかにもな「陽キャ」すぎて、どちらかと言わなくても「陰キャ」の私には共感できませんでした。
また、恋人が重病にかかるような経験もしていないため、ストーリーに対しても大きく共感はできませんでした。少しうるっとしてしまったところはありますが、それはあくまでフィクションに対する「うるっと」でした。
しかしどうでしょう、『恋空』を観た人の中には類似の青春を送った人や、恋人が重い病にかかって辛い思いをした人もいるかもしれません。おそらく、彼彼女らはそのストーリーに共感して、感情を大きく動かされたのではないでしょうか。
つまりここで私が言いたいのは、読み手が共感できる物語ほど、人の感情を動かしやすいということです。

この作品はそのターゲット層の読み手が主人公に共感することを誘いながら、ヒロインの魅力を主人公視点で語ります。主人公から見た性格の印象、容姿の良さが語られます。読み手と視点が類似しているため、それはストレートに読み手を襲います。
さらに、ストーリーが進むにつれ、主人公の感情も変わっていき、主人公から見たヒロインの魅力は段々と高まっていきます。私はその主人公視点のヒロインに対する感情の変化から、その尊さにより涙まで流しそうになってしまいました。あれは圧倒的な没入体験でした。
昔、知り合いの女性に恋愛相談をした時に、「その人のことを想って涙を流したことはある?」という質問をされたことがありました。これはまさにその現象なのではないでしょうか。

結論として、この作品の良さは主人公の視点を通して感じる、ヒロインの魅力でした。第三者視点で見た魅力ではなく、主人公を通したダイレクトな萌え、それこそがこの作品の強さなのです。

以上、書評でした。大学の学部が文学部だったので、よくこんなレポートを書いていたのを思い出しました。(流石にもう少しまともなものを書いてました。)
それではまた。


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